「日本人は酒好きだなぁ~」
こう思う人は多いのではないでしょうか?
歓迎会、送別会、忘年会、お花見、合コン、何かの打ち上げ…などなど。ことあるごとに飲み会をやってるような印象があります。週末になると、街や、駅や、電車の中で、やたらと酔っ払いを見かけます。
ただそのわりに、日本人は、アルコールに弱い人の割合が、世界トップクラスの国です。
アルコールに弱い日本人の割合は4割超
日本では、お酒を飲んで顔が赤くなる人、すぐ気分が悪くなる人、一滴も飲めない人がいることは常識です。
が、世界に目を向けると、それは東アジア系の人に特有の体質であることがわかります。
下の図は、アルコールに弱い人の割合を、地域別で示したものです。赤い部分が、アルコールに弱い人の割合となります。
引用元:http://www.sapporobeer.jp/tekisei/shikumi/taishitsu.html
この図をみると、東アジアから離れるほどアルコールに弱い人の割合が低くなることが分かります。特に、ヨーロッパ系やアフリカ系の人は、アルコールに弱い人が0%です。
彼らは飲んでも顔が赤くならないし、一杯目で気分が悪くなったり、ましてや意識を失うこともないということです。
対して、日本は44%と、半数近くを占めています。
つまり日本人は、お酒(アルコール)に弱い民族なのです。
アルコールに弱くなるメカニズム
人が飲酒した時、人間の体内では以下のような処理がなされます。
①アルコール摂取
↓
②肝臓でアルコールをアセトアルデヒド(有毒)に分解
↓
③さらに水と酢酸に分解(無毒化)
このとき、②のアセトアルデヒドがうまく分解されないと、二日酔いや頭痛を引き起こします。
そして、このアセトアルデヒドを③の水と酢酸に分解するためには、「ALDH2」という酵素が重要となります。
アルコールに対する強さは、このALDH2酵素が正常に働くかどうかで決まります。正常に働く人はアルコールに強く、そうじゃない人は弱いということになります。
そしてそのどちらであるかは、遺伝によって生まれつき決まっています。
日本人のうち、このALDH2が正常に働く人の割合は56%、ALDH2の働きが弱い人の割合は40%、まったく働かない人は4%というデータが出ています。
※参照
http://www.kirin.co.jp/csv/arp/fundamental/japanese.html
つまり、
「強い人=56%」
「弱い人=40%」
「一滴も飲めない人=4%」
と言い換えることもできます。
アルコールに弱い遺伝子は中国南部発祥?
篠田謙一氏は著書「日本人になった祖先たち」の中で、アルコールに弱い遺伝子は、今の中国南部にあたる地域で突然変異により生まれ、そこから周辺の地域に広がっていったのではないか、と述べています。
だから中国南部に近いほどアルコールに弱い人の割合が高く、中国南部から離れるほど、アルコールに弱い人の割合が低くなるといいます。実際に中国では、北部は強い人が多く、アルコール度数の高い蒸留酒が主流で、南部は弱い人が多く、アルコール度数の低めな紹興酒が主流だといいます。
そして、この中国南部というのは、稲作の発祥地だと言われています。
なぜかは分かりませんが、稲作の発祥地で「アルコールに弱い」という突然変異の遺伝子が生まれ、その後も淘汰されることなく、今日まで子々孫々にその遺伝子が伝わっているというわけです。
日本人の成り立ちにまつわる話
日本には、縄文時代後期から弥生時代(約3000年前~1800年前)にかけて、稲作が伝わったとされています。
それまで日本列島には、縄文時代以前から住んでいた「縄文人」がいましたが、弥生時代になると、大陸から移住してきた「渡来系」の人たちが加わり、稲作が始まり、両者が混血して今の日本人が形成された、という説です。
その「渡来系」の人たちが、「アルコールに弱い遺伝子」を日本列島にもたらしたと考えると、パズルが合います。
ということは、日本でお酒に弱い人は、少なくとも祖先の一人は中国南部がルーツである可能性が高いということがいえるわけです(と、篠田氏が書いています)。
また、それと関連して、もう一つ面白い話があります。
下の図表は、都道府県別の「酒豪マップ」です。都道府県別にアルコールに強い人の割合がまとめられたものです。
出典:https://style.nikkei.com/article/DGXBZO10187530R00C10A7000000?channel=DF130120166128&style=1
見事に地域によって違っていますね。このマップを観ると、酒豪の多い地域には、ある特徴があることが分かります。
北海道・東北・高知・南九州・沖縄といった、近畿や中部地方から離れた地域で酒豪が多くなっています。たしかに、北海道・東北・九州・沖縄あたりの人は、お酒に強いイメージがあります。同じ日本人といっても、地域によってこれだけ体質に違いがあるのが面白いと思います。
篠田謙一氏は次のように述べます。
日本人の成立に関しては在来の縄文人が住む日本列島に、水田稲作を携えた渡来系弥生人が大陸からやってきて、両者が混血して現代に続く日本人が形成されたという、いわゆる二重構造論が主流です。この理論によれば、北海道や東北と沖縄や九州の南部には、縄文人の系統を引き継ぐ人たちが主に居住しており、九州北部から近畿地方には渡来系の弥生人の特徴を色濃く持つ人々が住んでいると考えられます。
東北や北海道や沖縄は、歴史的に日本の中央政権の統治下に入ったのが遅かった地域です(東北=蝦夷、北海道=アイヌ、沖縄=琉球王国)。そういった地域のほうが、日本列島に土着の縄文人の血を、強く引き継いでいるというのは、非常に興味深い話ですね。
ちなみに僕のルーツにあたる県は、上の地図だと色が濃くなっています。
どおりで酒に強いわけだ(笑)。
参考文献:篠田謙一「日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造」