Netflixドラマ版「僕だけがいない街」感想(ネタバレあり)

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@2017「僕だけがいない街」製作委員会

2017年 日本
おススメ度:★★★★★

 

 「僕だけがいない街」のNetflixドラマ版を観ました。

 

同名の漫画作品を実写化した作品です。ジャンルとしては「タイムリープ+サスペンス+切ない系」という感じ。ちなみに「タイムリープ」とは「今の自分の記憶を保ったまま、過去の自分に戻る現象」のことです。

 

結論からいえば、面白かったです。実写化モノとしては成功している部類に入るドラマだと思います。

 

僕は原作を読んだうえでドラマを観ましたが、原作の世界観を壊すことなく、原作が好きな人も納得できる出来になっています(尺の関係上、カットや改変はありますが)。もちろん、原作未読の人でも楽しめる内容だと思います。

 

さらには、映画のような大掛かりなロケや空撮が行われています。物語の舞台になっている北海道・苫小牧の風景がとても美しく撮られています。

 

また、画面越しに冬の北海道の寒さが伝わってくるのも良いです。演じてる役者さんたちも寒そうにしてますからね(笑)。これはマンガやアニメにはない、実写ならではの表現だと思います。

 

そして役に合う役者を起用できていたり(〇〇事務所の〇〇を使う、アイドルを無理に使う、という大人の事情的なものをまったく感じない)、CMをはさむことを前提としない作り方、などなど、地上波では難しそうな事をやれているドラマです。

 

そのあたり、Netflixの強味を活かした作りになっています。

 

漫画原作の実写化作品は失敗しやすいと言われますが(個人的に8割くらいは失敗していると思う)、このドラマは成功例だと思いました。

 

ストーリーは以下の通り。

 

主人公の藤沼悟は売れない漫画家で、ピザ屋の配達で生計を立てている。人に心を開くのが苦手な、どこか冷めたタイプの人間。

 

ただ、1つ特別なのは、悟の身に「リバイバル」という現象が起こる事。

 

「リバイバル」とは、「何か事故・事件が起こりそうになると、過去にタイムリープする」という現象で、悟自身が名付けたものである。「リバイバル」は、事故・事件の原因を取り除かない限り、何度も繰り返された。

 

ある日、悟は「リバイバル」が原因で、ケガを負い入院することになる。

 

退院してアパートに帰ると、悟の母・佐知子がいた。悟は嫌がるが、佐知子はしばらく滞在すると言う。

 

その夜、佐知子がふと口に出した話から、悟は忘れかけていた子供の頃の出来事を思い出した。それは近所で起こった連続児童殺害事件のことで、悟の同級生が犠牲になった事件のことだった。

 

そしてある日、悟がバイトから帰ると、母・佐知子が何者かに刺され、殺害されていた。悟は、よりによって母殺害の容疑をかけられ、追われることとなる。そして警察に追いつめられ絶体絶命の状況下で、「リバイバル」が起こる。

 

「リバイバル」した先は小学校時代。

 

悟は「なぜ、こんなにも過去に遡ったのか」と、とまどっていたが、ある時ふと教室を見回すと、後に連続児童殺害事件の被害者となる雛月加代の姿があった。

 

「今は事件よりも前なのか」とボンヤリ考えていると、悟は加代について、ある事に気が付く。それがきっかけとなり、加代を連続児童殺害事件から救うことを決意する。

 

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以下、感想(ネタバレあり)

 

この作品の魅力は、小学校時代にタイムリープして、大人目線で小学生時代を追体験するところ、そして「29歳の経験」というアドバンテージを活かして、当時をやり直すところです。

 

悟は、雛月加代を児童殺害事件から救うために、積極的に近づいていきます。元々、人づきあいに消極的だったのがウソのように、積極的に親しくなろうとします。加代に「バカなの」と突き放されても、へこたれない。まあ相手はしょせん子供なんで、いちいち傷つきません。そこは29歳の余裕です(笑)。

 

「リバイバル」して最初の夜、母親と食卓を囲むシーンで、悟は心の中でこんなことを思います。

 

「なにげなく過ごしていた、なにげなく流れていった、俺が失ってしまった時間」

 

失ったからこそ分かる、子供の頃のなにげない日常が、いかに幸福なものだったのかということに気が付くシーンです。

 

そして悟は、今の自分にできることを全力でやろうとします。その結果、様々なことが起こるのが、このドラマの魅力でしょう。

 

そして、このドラマは映像のクオリティの高さも素晴らしい。特に、時折差し込まれる風景の美しさが、映画並みの美しさです。思わず見とれてしまいました。

 

「過去編」の舞台である北海道の苫小牧の風景は、まるで絵画のようですし、「現代編」の舞台である千葉の空撮も、都会の風景なのに「美しいな」と思えるような撮り方をしています。

 

なんというか、画の美しさでドラマの面白さが増して見えるほどです。

 

音楽も良いです。風景の美しさを引き立ててくれるような、これまた美しい旋律の曲が効果的に流れてきます。地味ながら、静かに感動を引き立ててくれる音楽です。

 

音響が良いと、ドラマの良さがさらに引き立ちます。音響の効果はバカにできません。

 

メインの子役二人も良い。悟役の子は「見た目は子供、中身は29歳」という難しい役どころをうまく演じてます。加代役の子も、加代の幸薄そうなキャラを忠実に再現しています。君らホントに子役か?と思いました(笑)。

 

気になった点

 

一方、少し気になった点もありました。

 

「実写化モノ」にありがちな、「尺が足りてない感」です。ところどころカットされていたり、急ぎ足になっているところ、説明不足になってしまっているところが散見されました。

 

1つ例を挙げると、八代学が2006年で「西園学」という名前で市議会議員になっている経緯です。そこはカットせず説明してほしかったと思います。原作では、実に巧妙なやり方で名前を変え、市議会議員の座を手に入れていたことが説明されているのですが、ドラマでは何の説明もなく、ご都合主義みたいになっていると感じました。

 

それと、15年眠っていた悟が目覚めた時、「顔色良し!肌ツヤ良し!肉付き良し!」で全然それっぽくなかったのも、地味に気になりました(笑)。

 

Netflixドラマの可能性

 

今回、初のNetflixドラマ試聴だったのですが、 地上波のドラマでは出来ない事をやっているなと思いました。おそらく、地上波ドラマよりもお金もかけることができて、しかも自由に作れることが大きかったのではないかと思います。

 

「制約が少ない」というのは良い作品を生み出しやすくなります。地上波の場合、広告料で成り立っているので、どうしても広告主に配慮せざるを得ない面があります。ネットの有料サービスのドラマは、視聴者が払うお金で制作されるため、そういった制約がありません。

 

これからはネットサービスのオリジナル作品から、名作が生まれる時代になるのでしょう。

 

「僕だけがいない街」の魅力

 

この作品の魅力は、何と言っても「先が読めない、こちらの予想を裏切る展開が繰り返される」ということです。

 

小学生時代に戻ることから始まり、成功したと思いきやアッサリ覆されて絶望の淵に落とされたり、まさかの人が真犯人だったり(勘の良い人は気づいたかも)、悟が15年昏睡状態になったりと、意表を突く展開が続きます。

 

きわめつけは、加代がもう1人の被害者、広美と一緒になり、子持ちになったことです。あんだけ悟といい雰囲気だったのに、この作品はそれをアッサリ裏切ってきます(笑)。

 

ただ、原作で初めてそのシーンを見た時は、ガッカリ感などはまったくなく、むしろ「加代、良かったなあ」と思いました。

 

なぜなら加代は子供時代、とてつもなく不遇だったわけです。DVを受けた挙句に、殺されてしまうわけですから。さらに、加代と一緒になった広美も、リバイバル前の世界で殺されています。

 

その二人が一緒になり、子供が産まれたという形に、未来が変わったわけです。変えたのは悟です。悟が子供を抱いた加代を見て涙を流すシーンは、僕も心を打たれました。完全に悟の気持ちに同化していました。

 

主人公とヒロインがくっつかなかった展開で、こんなに感動できることって、なかなかないと思います。ここは原作者・三部けいの着想のすばらしさだと思います。

 

このシーンは、原作で初見の時と、ドラマで初見の時とで、同じ感動を得られるかは分かりませんが、僕はドラマでもジーンと来ましたから、どちらにせよ良いシーンであることに変わりはないと思います(ただ、大人加代は子供時代と顔のタイプも雰囲気もまったく違う人が演じていて、初見では「誰?」と思いましたがw)。

 

そしてもう1つ。それは「あの時こうしていれば」という「後悔」に対して、悟が全力でぶつかりに行くところです。

 

誰もが「あの時、こうしていれば」と思ったことがあると思いますが、悟は「リバイバル」によって、やり直すチャンスを得ます。そして、目の前に現れたミッションを次々とクリアしていく。それがこの作品の面白さの理由だと思います。

 

そしてラストは、原作をほぼなぞった形で終わります。

 

未来は白紙だ

 

そんな言葉で、物語がしめくくられます。

 

「僕だけがいない街」のNetflixドラマ版は、原作に実写ならではの良さが加わった良作でした。とても満足な出来でした。

 

原作ファンの方にも、おススメできる作品です。