公開:1987年 アメリカ
おススメ度:★★★★☆
スタンリー・キューブリック監督の問題作『フルメタル・ジャケット』。
序盤ですぐ「あ、この映画、普通じゃないわ」と気がつく。
前半の重要人物であるハートマン軍曹が、とにかく強烈なのだ。
映画は、過酷な新兵訓練を描いた前半部分と、ベトナムでの戦闘を描いた後半部分とに、大きく構成が分かれている。見どころは、何といってもハートマン軍曹による新兵訓練だ。
鬼!といえるほどの苛烈な手法で、ほとんど虐待レベルの罵倒、体罰、しごきによって新兵たちを徹底的に鍛え上げていく。
新兵たちは、ハートマン軍曹から浴びせられる下品極まりない罵詈雑言の数々と、暴力によって、人格を否定され、自尊心を破壊され、感情を持つことを禁じられ、服従を強いられ、殺人マシーンへと仕立て上げられていく。
その訓練シーンは、一度観たら忘れられないほどのインパクトがある。
新兵訓練編
冒頭で髪を丸刈りにされる新兵たち。その新兵たちを待ち受けていたのは、鬼軍曹ハートマンによる暴力的な訓練だった。
このハートマン軍曹、とにかく口汚い。
一例をあげると、
「話しかけられたとき以外は口を開くな!口でクソたれる前と後に“サー”と言え!分かったかウジ虫ども!」
「俺は厳しいが公平だ!人種差別は許さん!黒豚、ユダ豚、イタ豚を俺は見下さん!すべて平等に価値がない!」
「まるでそびえ立つクソだな!パパの精〇がシーツのシミになり、ママの割れ目に残ったカスがお前だ!」
などなど。これでもほんの一例にすぎない(笑)。
そんな中、あまりに出来が悪すぎてハートマンから集中砲火を浴びるはめになった、レナードという新兵がいた。その新兵は、肥満体でうすら笑いをしていたことから「ほほえみデブ」と名付けられ、ハートマンから罵倒の限りを尽くされるのだ。
ある時、「ほほえみデブ」ことレナードが飲食禁止の営内にドーナツを持ち込んでいたことが発覚。怒り狂ったハートマンが課した罰は「レナード以外の全員に腕立てを命じる」という、酷薄なものだった。当然、周りの新兵たちはレナードに悪感情を抱くようになる。
そしてとうとう、レナードはリンチに遭ってしまう。結果、レナードは狂人になってしまい、ある夜…。
この前半部分の顛末は本当に考えさせられる。
ベトナム市街戦編
後半は、前半とはガラリと内容が変わる。
前半でハートマンに鍛えられた新兵の一人「ジョーカー」の視点から、ベトナムでの市街地戦が描かれる。ジョーカーが前線に向かうためのヘリに乗り込むと、一緒に乗り合わせた男が、ヘリから一般人をひたすら狙撃するという奴だった。
その男は銃をぶっぱなしながら、
「逃げる奴はベトコンだ!逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ!フゥハハハ!」と豪語。
ジョーカーが「よく女子供を撃てるな」と問うと、
「簡単さ!奴らは動きがノロいからな!HAHAHA!」と返ってくる。
ジョーカーはもちろん「よく女子供を撃ち殺して良心が痛まないな」という意味で聞いたのに、このずれた回答。
完全にぶっ壊れている。
この後半部分は非常に淡々と描かれている。仲間がどんどん撃たれて死んでいくが、お涙頂戴的な演出やドラマチックな演出などは一切なし。仲間たちは「SHIT!」と舌打ちしながら、事務的に処理するだけだ。でも、実際の戦場は本当にそんな感じなんだろうと思う。
1つ気が付いたのが、戦闘シーンのカメラワークが「兵士たちと同じ目線」から映し出されていることだ。観てる方も、実際の戦場にいるかのようなカメラワークになっている。
そして、不気味なラストシーン。
ジョーカー始め、兵士たちが狂気を帯びてしまっていることが分かるシーンだ。彼らが戦争を生き伸びて故郷に戻ったとき、果たしてどうなるのか想像すると暗澹たる気持ちになる。
この映画は、「戦争の狂気」を表現する映画としてはトップクラスの作品である。