日本人は働きすぎ!?「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」

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熊谷徹著『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』を読了。

 

本書の内容は、タイトルにもある通り、日本とドイツの労働環境を比較したものです。

 

特に興味深かったのが、次の5点です。


①残業しないのが当たり前
②小売店は日曜・祝日は閉まっている
③有給休暇とは別に病気休暇がある
④有給休暇中に病気になった場合、有給が戻ってくる
⑤2~3週間の長期休暇が当たり前

 

①残業しないのが当たり前

 

ドイツでは法律で企業での労働時間に上限規制をかけている。これは残業時間の上限規制より厳しい。

象徴的なのは、1日10時間を超える労働が禁止されていること。月平均の残業の上限ではなく、毎日10時間を超えて働いてはいけないのである。

1日の労働時間は10時間まで許されているが、6か月の平均労働時間は1日8時間以下にしなくてはならない。

 

p12-13

 

1日10時間といえば、朝9時出勤の場合、間に昼休みをはさんで、夜の20時まで働いたら、強制的に「家に帰れ」と言われるということです。

 

しかも、さらに「6か月の平均労働時間を1日8時間以下にしなくてはならない」ときてるので、実質残業が禁止されているといえます。

 

しかし、だからこそドイツ人は過労死と無縁でいられるわけです。長時間労働によって心身ともに衰弱する、ということがないのです。

 

ちなみに、企業の管理職、病院の医長、フリーランスの個人事業主、旅客機の機長や客室乗務員、トラックやバスの運転手、などは例外とされるといいます。また、自然災害や鉄道事故のような緊急事態の際には、労働時間の延長が「許される」とのことです。

 

なお、もし従業員に一日10時間以上働かせていることが判明すると、最高1万5,000ユーロ(180万円)の罰金が科されるとのこと。

 

しかも、

 

起業が事業所監督局から罰金の支払いを命じられた場合、会社の金で罰金を払うのではなく、長時間労働させていた部署の管理職に払わせることがある

 

p66

 

といいます。

 

なので、部長とか課長とかの管理職にあたる人は、部下の労働時間が長くならないように、必死こいて管理することになります。

 

さらにドイツの場合、従業員から国の機関(事業所監督局)に「長時間労働を強いられている」という訴えがあった場合、その職場の責任者を検察庁に告発することがあるといいます。

 

刑事事件に発展し、裁判所から有罪判決を受けた場合、経営者は最長1年間の禁固刑に処せられる可能性がある。長時間労働を強いるブラック企業の経営者は、罰金ばかりではなく「前科者」になるリスクを抱えているのだ。

 

p55

 

つまりブラック企業の社長はドイツだったら逮捕されます。

 

②小売店は日曜・祝日は閉まっている

 

ドイツの小売店、デパートとかスーパーとかは、日曜・祝日には営業していません。

 

ドイツでは、日曜・祝日の労働を法律で禁止している。

小売店の営業時間を定めた「閉店法」でも、労働者保護のために日曜・祝日の営業を原則禁止。ドイツでは、駅・空港、ガソリンスタンド、一部のパン屋などの例外を除けば、日曜・祝日は営業していないのだ。

 

p14

 

元は宗教的な理由からである。キリスト教では日曜日を安息の日と定めており、それを法律でも定めています。

 

僕は2013年にドイツを訪れたことがあるのですが、たしかに日曜になるとスーパーやレストランが閉まっていました。なので、日曜でも開いてる駅の売店でパンを買い、それを食べながら観光していたのを覚えています。

 

日曜日に店が開いてないのは、日本人からすると不便に思うかもしれません。しかし著者の熊谷氏いわく「慣れてしまえば、不便は感じない」とのこと。ドイツには24時間営業のコンビニなどはなく、ほぼすべての店が午後8時には閉まるそうですが、サラリーマンの帰宅が早いために何の問題もないのだといいます。つまり無理して遅くまで店を開けておく理由がないのです。

 

そういう社会は、店で働く人たちにとっては「働きやすい」社会でしょう。長時間労働しなくていいし、日曜と祝日に確実に休むことが出来ます。

 

まあ、「稼ぎまくりたい!」という人は困るかもしれませんが、ドイツでは「休日は休め!稼ぐのは平日の営業時間内で稼げ!もしくは独立でもしろ!!」ということなのでしょう。

 

日本もドイツ並みにしろとまでは言いませんが、日本の小売店の「元旦から開店します!年中無休です!」という風潮は明らかにやりすぎでしょう。年末年始くらいは休みで良いと思います。

 

日本のサービスレベルや利便性の高さは誇るべきことだと思いますが、一方でそれが従業員たちの過重労働を招いているのも事実です。今のような、日本全国津々浦々に、年中無休で24時間営業の店だらけというのは、明らかにやりすぎです。

 

③有給休暇とは別に病気休暇がある

 

一般的に日本の職場では、風邪ひいて休むときは有給を使って休むことになります。というか、多くの人が「有給って、そういうときのためのものでしょ?」と思っているはずです。

 

ところがドイツでは違います。

 

有給とは別に「病気休暇」があり、最大6週間分が与えられるのです。もちろん無給ではありません。

 

ドイツでは、有給休暇と病欠の混同は許されない。法律で有給休暇と病欠を明確に区別している。

ドイツでは、有給休暇とは健康な状態で日常の仕事のストレスから解放され、家族と時間を過ごしたり、自分の好きなことをしたりするためのものだ。

 

p86

 

医師の診断書を提出すれば「病気休暇」として認められ、その間の給料も出る、というシステムです。「病気になるのは従業員本人のせいではない」という考え方です。風邪ひいて熱が出て休む時なども、有給ではなくこの病休を取るといいます。

 

この考え方は日本にも導入するべきだと思いました。

 

日本では一般的に、病気になったらまず有給を取ります。「病休」を取るとしたら、入院が必要なときでしょうが、そういうときでも、まずは有給を消化することになるのではないでしょうか(自分が今まで働いたところはそうでした)。

 

そもそも「病休」というシステムすらない会社もあります。まるで「病気もケガもすべて自己責任!」と言わんばかりです。しかし、いくら気を付けてたって、病気になるときはなってしまうんで、「病気になるのは従業員本人のせいではない」はずです。

 

これについては、日本とドイツのどっちが労働者にとって働きやすい社会かは明白です。

 

ちなみに仮病使ってズル休みしたのがバレたら即解雇だそうです。なので、この病休を悪用する人は少ないんだとか(解雇規制が日本よりゆるいため、それができるわけです)。

 

④有給休暇中に病気になった時は有給が戻ってくる

 

一番衝撃的だった話がこれ。「は?マジかよ!?」と声を挙げました(笑)

 

2週間のバカンス中、1週間は病気で寝込んでしまったとしよう。そのことをメールなどで上司と人事部に連絡し、出社後に医師の診断書(証明書)を提出すれば、有給休暇中に寝込んでいた日数は返ってくる。

 

p88

 

ホント徹底している。その発想はなかった!

 

⑤2~3週間の長期休暇が当たり前

 

正直、一番うらやましいのがこれです(笑)。

 

日本では就職すると、長期の休みが取れたとしてもせいぜい一週間程度のところがほとんどでしょう。10日も休めたら「ラッキー」って感じです。1か月以上の休みがあった学生時代とは、ものすごい落差です。

 

ところがドイツでは、就職しても2週間以上の長期休暇を取るのが普通なのです。

 

ドイツでは有給休暇を100%消化することや2~3週間のまとまった長期休暇を取ることが、当然の権利として認められ、実行されている

 

p14

 

それが可能なのは、

 

・長期休暇を取るのが当たり前の社会になっていること

・そのため長期休暇を取っても、白い目で見られることがないこと

・誰かが長期間抜けても、業務に支障が出ないようにサポート体制が徹底されていること

 

によるといいます。

 

そういう習慣になっている職場では、長期休暇中の人の仕事を代わりに担当するなんて当たり前であるため、「俺に仕事押し付けて休みやがって」みたいに思ったり思われたり、ということもありません。

 

なぜなら自分もそのあとに長期休暇を取るからです。「お互い様」なのです。

 

また、そのことで取引先や顧客から不満が出ることもありません。なぜなら取引相手や顧客自身も、自分の仕事で長期休暇を取る習慣を持つためです。

 

なので「担当の〇〇は現在、バカンス中です」と言われれば、「あ、そうですか ^^」で終わるのです。で、他の人が代わりにきちんと対応してくれさえすれば、何の問題もないわけです。

 

もちろん日本の職場でも、誰かが不在になった時のために、業務の共有化はされているところは多いと思います。ただ、日本で長期休暇を取りにくいのは、周りの目や「休むのは申し訳ない」という罪悪感だったりが理由ではないでしょうか。なので、取りたくてもなかなか有休を取れないというのが正直なところでしょう。

 

逆に言えば、有休を取りやすい会社というのは、「有給を取るのが申し訳ない」という空気がないとも言えます。

 

日本の有給取得率を上げるには、「有給は取れて当たり前」という空気を、日本の社会全体に造り上げる必要があるでしょう。

 

一人当たりの労働生産性が高いドイツ

 

以上のように、残業しない、長時間労働しない、日曜日は店が休み、長期休暇当たり前なドイツですが、それでも世界第4位の経済大国であり、EUの盟主であり続けています。

 

その理由は「労働生産性の高さ」にあると、著者の熊谷氏は述べます。

 

 2015年のドイツの労働生産性は66.6ドル(7726円)で、日本の45.5ドル(5278円)を約46%も上回っている(OECD調べ)。

 

p31 

 

つまり、短い時間で効率よく成果を上げているということです。

 

それができる理由は、「長時間労働によって疲労がたまる」ということがないため、毎日余裕をもって仕事にのぞめるからでしょう。あとはドイツ人が合理的に物事を考える民族だというのもあるかもしれません。

 

一人当たりのGDPの数字も、日本よりもドイツのほうが上回っています。
 

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出典: 

http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=PPPPC&c1=DE&c2=JP&s=&e=

 

なので、別に残業しまくらなくても、長期休暇を取るようになっても、24時間営業の店が減っても、日本の経済力は落ちるとは限りません(その代わり労働生産性を上げる工夫は必要ですが)。

 

むしろサラリーマンたちが、仕事から早く帰れるとなったら「寄り道して、ついでに何かを買う」という機会が増えて、日本の小売り業の売り上げが伸びるかもしれません。

 

そしてなにより、長時間労働をなくし、休みがとりやすい社会になれば、過労死を大きく減らすことができるでしょう。

 

本書は、日本の常識がすべてではないということが分かる面白い本でした。